[職場闘争]不当労働行為審査中も御構い無しの組合員への排除攻撃 part 2 〜出版界の現状と障害福祉団体の福祉系雑誌の発行部数の推移から〜

前回の続きだが、協会事務局の無反省・無自覚などうしようもない対応は別にして、他の福祉系雑誌や昨今の出版界全体の状況を鑑みれば、購読者の減少は月刊誌『さぽーと』だけの問題ではないというお話をpart 2でしたい。
福祉業界の話ではなく、出版界・出版流通に関する話題が中盤に入るので、『さぽーと』誌の発行事情だけを読みたい方は前半と後半をご覧ください。

Part 1でも触れた「月刊誌『さぽーと』の在り方に関する検討会」という会議は、2017年の監事監査(「平成」28年度)で指摘された歯止めのかからない「研究会員」(会員施設所属職員の購読者を協会ではこう呼ぶ)の減少に対処するべく設けられた特別会議である。
研究会員(購読者)増は事業拡大の目的からすれば当然ではあって、これまでの経緯を振り返ると、研究会員数の拡大は随分昔から言われていて、古くは故江草安彦会長(岡山県・社会福祉法人旭川荘)時代から言われていたことだ。但し、その頃はむしろ研究会員数は年々増加している。

『さぽーと(AIGO)』誌の編集体制と購読者数の変遷

『愛護』(現『さぽーと』)誌は、1992年に誌名ロゴを『愛護』から『AIGO』へ、1995年には判型をA5判からB5判に変更している。1999年には『AIGO』(編集委員長は近藤弘子氏)は企画を一新し、はたよしこ氏の「ギャラリーGallery」、エッセイ「風の通り道」、映画評論家のおすぎ氏の「おすぎのいい映画をみなさい」などの新コーナーの拡充を図り(これには当時の編集委員だったK氏の企画と人脈が大きく貢献している)、研究会員数は17,346人と過去最多となった。その後、500人前後で各年次で増減はあったものの、2002年に誌名を現在の『さぽーと』に変更し、当該年度は16,915人と研究会員数はやや持ち直したものの、2003年の措置費から支援費制度へ制度が大きく変わった直後の2004年に落ち込み、障害者自立支援法施行の2006年、新体系による障害福祉現場の混乱とそれに伴う協会内の『さぽーと』編集体制を巡るゴタゴタ(知っている人は知っている)もあってか、研究会員が前年比マイナス1,823人と激減して以降、下降線を辿り、2010年には1万人を切ってしまった。

今回の会議「月刊誌『さぽーと』の在り方に関する検討会」と同様の趣旨で、その打開を図るために、2006年12月11日(月)に「事業促進検討会議」が開催され、各県で『さぽーと』を1人でも購読している施設が当時41.9%だったものを70%にまで引き上げようということが決議され、各県の協会に協力要請を行ったことがあった。
また、この会議とは直接関係ないが、『さぽーと』2007年12月号から、外部の出版社に編集と印刷、販売促進を一部業務委託する形で『さぽーと』誌の編集体制も大きく変わった。さらに、書店流通販売の強化と雑誌の判型がB5判からA4判に変更された*。しかし、外部委託と一般書店での販売戦略と、会員としての研究会員増は直接結び付くものではなく、研究会員に関して言えば関係者の努力も虚しく、総体的に然したる成果を見せず、大きく研究会員を減らしてしまったことは前述の通り。編集や印刷を外部委託しても経費負担が膨らむばかりで、こちらも中止。現状動いている書店流通の既得権益だけは確保しなければならないため、当時のI事務局長が印刷を引き受けた古くからの付き合いの印刷会社に無茶で頓珍漢な要求をするのを、当該は呆れつつ、横目で眺めて(笑)、中取次をしてくれる発売元を探すのに一苦労したことを思い出す。出版流通を熟知していたのは元出版社勤務の当該だけだった。

それにしても、この時の取組の総括は為されていないので、何故上手く行かなかったのか検証すべきだと思うのだが、現在の会議(当該の出席した第1回・第3回と小グループでの打ち合わせ)ではこの経緯を知ってか知らずか(どうやら、知らなかったようだ…なんで?)、全く話題に上がらない。かつての研究会員(購読者)増の成功や機関決定した取組にも拘らず失敗した事例から学ぶ**ことは多いはずなのだが…。

* この変更の理由の一つが「A4判にしないと書店においてもらえない」という、なかなか傑作な理由だった。因みに文字組み主体の月刊誌の判型はA5判かB5判がほとんど。逆に言えば、書店ではA4判の月刊誌はそうないので、書店店頭でやたらと目立ったことは間違いない。(笑)

** 失敗に学ぶとすればこちらの名著、戸部良一他(著)『失敗の本質日本軍の組織論的研究』中央公論社 1991 を参照のこと。

出版界の現状

購読者の減少は月刊誌『さぽーと』に限ったことではないことは、冒頭でもお話ししたが、世間一般で言われているように、新刊出版点数は増えているものの、「活字」離れ(活版印刷で雑誌を印刷している版元などもはや存在しないので「活字」離れという言葉はどうかと思うし、実態を的確に表現しているとは思えない)・紙媒体の売り上げは減少の一途を辿っている。事実、大手出版取次の倒産・廃業、それに連鎖して起こっているのも一つの要因として考えられる書店の閉店。大型書店の寡占化が進む(これも既存大手取次の配本の関係)と同時に、全国の書店数は10年で25%も減少している。当然、老舗や中小出版社も倒産・廃業の憂き目に遭っている(こちらの記事を参照)。
出版取次会社の日本出版販売株式会社(日販)「出版業界の現状」によれば、1996年をピークとして、特に雑誌の売上が減少に転じている。ここでは雑誌の返品率は40%となっているが、2017629日の出版業界紙『新文化』記事によれば、2017年5月期の月刊誌の返品率は遂に50%超の51.0%になっているという。

勿論、これは旧態依然とした出版流通と新刊委託依存の版元の収益構造に問題があることは間違いなく、人々の知る権利を下支えし、言論・表現・思想の自由と文化の担い手としての“社会の木鐸”である出版社・出版人の理想とは別に考えなければならない…と言いたいところだが、出版産業全体の地盤沈下を考えるとそうも言ってられない状況に追い込まれているようだ***

*** 2018年11月19日、出版取次大手の株式会社トーハンと日販が「物流協業に関する検討開始のお知らせ」のプレリリースを発表した。これは旧来の出版流通の大きな転換を目指すのか、さらに二大取次の業界の寡占化・系列化を加速させたいのか、いずれにせよ、出版流通業の危機感が表れている。

トーハン「物流協業に関する検討開始のお知らせ」プレリリース
日販「物流協業に関する検討開始のお知らせ」プレリリース

障害福祉団体の福祉系雑誌の発行部数の推移から

さて、障害福祉関係の雑誌だけの発行部数の推移を調査したソースはないが、発行部数が1万部以上の(だった)主要な障害福祉団体の雑誌の発行部数の年次推移を、当該がわかる範囲で調べてみたのが下記のデータである。

障害福祉団体の福祉系雑誌(月刊誌)の発行部数の年次推移(19962016年)

発行元 日本知的障害者福祉協会 全日本手をつなぐ育成会 日本障害者協議会(JD) 日本障害者リハビリテーション協会 全国社会福祉協議会 全国障害者問題研究会
雑誌名 『さぽーと』 『手をつなぐ』 『すべての人の社会』 『ノーマライゼーション』**** 『月刊福祉』 『みんなのねがい』
1996年 22,000 55,000 20,000 10,000 30,000 20,000
1997年
1998年 10,000
1999年
2000年 22,300 5,500
2001年 5,000 40,000 17,000
2002年 22,500
2003年
2004年 21,500
2005年 21,000 20,000
2006年 20,000
2007年 50,000
2008年 19,000
2009年 18,500
2010年 18,000
2011年 17,500 4,000 ※2011年以降非公表
2012年 17,300
2013年
2014年 32,800 3,000 2,000
2015年
2016年 17,300 30,000 3,000 1,500 20,000
『雑誌新聞総かたろぐ』メディア・リサーチ・センター社より

****  日本障害者リハビリテーション協会『ノーマライゼーション』は2018年3月号をもって休刊。

ここに挙げたのはあくまで公称発行部数であって、実発行部数や実売部数はもっと少ないだろう。因みに、『さぽーと(AIGO)』は実発行部数を公表し、自主財源で賄っている。
各団体の発行部数減には助成団体からの助成金の打ち切りや団体の組織的問題等も絡んでいると推察されるが、これを見れば、2000年前後から各誌発行部数が減少し、一旦下落に転じて以降、V字回復を果たした版元や団体はない(今後も“ない”とは言えないが、出版業界全体の低迷を見る限り悲観的に為らざるを得ない)。
『さぽーと』誌については、2002年の最盛期の22,500部から2018年現在の実発行部数16,500部の減少率(26.7ポイント減)だけを見れば、結構頑張っている方である。尤、研究会員は1万人近く減少している現在、これだけの発行部数を維持できているのは、一般購読者は1千人強でほぼ横這い、とは言え、書店販売も自前でやっていた頃に比べれば600人強減少(現在、中取次に書店定期・店売用に300部程を卸している)、会員施設・事業所が1999~2002年当時に比べて3,000箇所以上増えている(会員には会員加入の対価として贈呈している)からである。

…閑話休題

それにしても、研究会員の減少に歯止めをかけるのが、本来の目的の会議であったと思うのだが、当該が参加した限りにおいて、どうもそれとは関係のない議論にズレて行っているような気がしてならない。
例えば、電子媒体化も議論になっているが、これも一部電子媒体化やWeb、SNSでの広報も、何年も前から『さぽーと』編集委員会で提案されて来ているのに、執行部でなのか事務局でなのか知らないが、いつも提案が反故にされ続けて来た。
2007年に外部に組版やデザインを任せたり、前述のように判型をA4判にしたりと誌面刷新を図ったことがあったことは前述の経緯の通りだが、結果何の効果もなく、ただ購読者を減らしただけだった(勿論、これだけが理由ではないだろうが)。「デザイン」だ「レイアウト」だと、思いつきの小手先の変更では購読者増は望めなかったことは実証済みなのだが、またここに来て同じことが繰り返されないことを願うばかりだ。


第1回「月刊誌『さぽーと』の在り方に関する検討会」の席上の自己紹介で、なんと、水内事業課課長代理は「橘会長(前会長)から『さぽーと』も購読者数を増やすように命を受けた」と宣った。おっと、大きく出たもんだな。
編集委員会もそうだが、事務局レヴェルでは当該とI事業課係長で知恵を絞って、研究会員(購読者)の減少に歯止めかけるために努力し*****、100〜200程度までに減少を食い止めていたんだが、あなたが事業課課長代理になり、『さぽーと』編集や販売促進で、リーフレットや表紙デザインを変えたりと介入してから、研究会員は一気に600人以上も減少(2017年の監事監査で指摘される原因にもなっている)、その後も300人以上下落し続けているんだが、その自覚や反省はあるのか?

***** この間、末吉事務局長は何の指示も関与もしなかった。そもそも、事務局長なのに責了前にゲラのチェックをしたことは一度も無い。

末吉事務局長を団交に出さなくてもいいと言った橘会長の判断は、虚偽と事実の歪曲により誘導されたものだったことが、都労委の調査で明らかになったが、ここでもまた都合の悪い現実を知らせずに隠蔽し、このようなデタラメな決断が下されたのだろう。げに恐ろしきは“君側の奸”である。奸に操られる方も操られる方だが…。

それにしても、こんな大口叩いてちゃんと責任取れるのか? 知らん顔をしている無責任な末吉事務局長も事務局全体と、取り分け、人事の責任があるんだが、あなたにその自覚があるのか?

…The end

[職場闘争]不当労働行為審査中も御構い無しの組合員への排除攻撃 part 2 〜出版界の現状と障害福祉団体の福祉系雑誌の発行部数の推移から〜」への4件のフィードバック

  1. 林武文

    専門誌の編集を外部に委託したというのは驚きです。他の専門誌でも同様な例があるのでしょうか?

    かつてウチの職場では育成会の機関紙が配布3日後にゴミ箱に捨てられていたことがあります。
    せっかくいい記事が載っていても、それをどう活かすかは現場の管理者の意識と手腕次第です。さぽーともいい記事がたくさんあるのですから、例えば非正規職員の正規職員登用試験にさぽーとのセミナーから出題するとか、朝の連絡会、朝礼の際に管理者がさぽーとの記事を紹介したり、と色々活用方法があるはずです。発行部数の低下は、発行者ではなく購読する会員施設側の問題も多々あるのではないでしょうか。人手不足でさぽーとを読む余裕がない。読んでも職員間で話し合う機会がない、異業種からの転職者にはオリエンテーションや研修が不備でさぽーとを読むことに関心がない等々・・・。勉強したがらない人ばかりの福祉現場ばかりが増えているのかもしれませんね。

    返信
    1. jaidunion

      コメントしてくださっているように、支援現場で研修などにも活用されている施設・事業所はあります。また、おっしゃるように、せっかくいい記事や論文をそろえても、現場で活用されるように広報や営業に力を入れなければなりません。

      『さぽーと』誌の個人購読者が減っていったのはなぜか?という個別な歴史的検証と、社会福祉政策との関連、同業界他誌や出版界全体の現状との比較検討、『さぽーと』誌固有の問題なのか否かの切り分け、と数字だけを考えれば、多面的な現状分析が必要です。

      それとは別に『さぽーと』誌には協会の機関誌としての側面もあります。機関誌であれば売れ行き云々よりも、時流にとらわれない編集方針で協会としてのオピニオンを発信していかなければなりません。
      他団体の機関誌も『さぽーと』誌以上に発行部数を減らしたり、『ノーマライゼーション』や『DPI われら自身の声』のように休廃刊していますが、それを補うようにWebやSNSで発信を続けています。

      外部委託に予算をふんだんに使えるなら、今時の見栄えのいい雑誌は作れるかもしれませんが、協会は公益財団法人なので法人会計として問題がないのかということと、そもそも、文藝春秋社の『文藝春秋』や岩波書店の『世界』、青土社の『現代思想』が、いくら売れているからといって、マガジンハウスの『BRUTUS』や『an・an』、『Hanako』のようにはならないでしょう。『さぽーと 知的障害福祉研究』なんですから。(笑)

      それにしても、「過去こういうことがありましたよ」とか「他誌の現状はこうですよ」とか、私がよほど不都合な、関係者に知られたくない事実を言っているのか、発言するたびに露骨に睨みつけられたり、発言妨害されるのは勘弁して欲しいですよ。まったく…。

      返信
  2. TN

    出版流通関連記事で検索して拝見させていただきました。私は出版社で営業を担当しています。

    96年から今まで軒並み福祉系雑誌の発行部数が激減しているなかにあって、専門誌の『さぽーと』さんの発行部数はかなり健闘していますよ。
    『さぽーと』さんは団体の機関誌のようですから、メリットとデメリット両方がある誌面刷新よりも、購読者数や会員数の拡大は組織の課題ではないかと思いました。

    トーハンと日販の物流協業にむけた動きが今後どうなっていくのか、とにかく今までになかったほど出版流通が危機的状況を迎えているということは事実ですね。
    先日も某取次の流通改革推進部の担当者から、御社にお伺いさせていただきお話を聞いていただきたい、という電話がありました。とにかくいい話はありません。

    「A4判でないと書店に置いてもらえないから」という判型変更の理由が面白かったです。
    「A4なんて、そんな大きな本どうやって置くの?」という書店がほとんどですので。

    返信
    1. jaidunion

      コメントありがとうございます。純粋に会員限定の機関誌ではなく、商業出版でもあるのですから、出版界の現状把握が大切だと思うのですが、誰も考えようとしません。狭い福祉業界、いやもっと狭い協会だけの世界で完結し、外の世界に目を向けようとしないことは問題です。
      間違った前提に基づいた、間違った方針が果たして成功するのか不安に思います(うまくいけばいいのですが…)。

      返信

jaidunion へ返信するコメントをキャンセル