[集会報告]7・16間接強制・損害賠償攻撃に反対する第6回全国集会〜民事執行法改正の問題点を中心に〜

2018年7月16日(月祝)18:30から、東京都南部労政会館において「7・16間接強制・損害賠償攻撃に反対する第6回全国集会」が開催された。
この度の全国集会では、現在法務省法制審議会で議論されている改正民事執行法の問題点を、弁護士の宇都宮健児先生にお話しいただくことがメインテーマであったので、市民運動の集会や「希望のまち東京をつくる会」主催の「うつけんカフェ」などで私が個人的に何度かお会いしている宇都宮先生に、わずかばかりの繋がりではあったが、実行委員会と宇都宮先生とのスケジュール調整役を担うことになった。

労働組合の持つ労働三権は憲法28で保障されている基本的な権利であることは言うまでもなく、本来であれば、正当な組合活動(労組法12)は労組法8刑法35で民事・刑事共に免責されるものである。それほどまでに、資本との関係において労働者及び労働組合は法的な保護が与えられているのである。
私の手元にあるテキストには、

「組合活動として行われる使用者批判の活動は、同時に憲法28条の団結権の行使たる性格をもっており、それに対して使用者は受忍義務を負っていることが考慮されなければならない。
…労働組合・組合員の言論活動が使用者の労務管理や企業の経営方針・ 企業活動に及び、そのために使用者が多少の不利益を受けたり、企業の社会的信用が低下することがあっても、それだけではまだ組合活動としての正当性が否定されるべきではない。」——西谷敏(著)『労働組合法 2版』p.265 有斐閣 1998

とあるように、これまで司法判断においても労働基本権は最大限保障され、使用者は組合からの批判を受忍する義務を負う(受忍義務)とされたのだが、それも今は昔の話…現在、労働組合の争議行為に対して名誉棄損・信用棄損・営業妨害・器物損壊・暴行・強要等々デタラメな理由を付けて刑事弾圧・民事弾圧が仕掛けられ、経営側の濫訴とそれを鵜呑みにした不当判決を濫発する裁判所が一体となって争議禁圧が行われている現状を知る人は多くないだろう(少々古いが、日本労働弁護団の抗議声明を参照)。

労働組合の社前その他での抗議行動や街頭情宣を差し止める仮処分民事保全法23)決定や損害賠償請求、組合の情宣行動としてのインターネットでの企業批判記事に対する差止請求・間接強制民事執行法172)、そして組合員や支援者に対する強制競売民事執行法45)=自宅差し押さえ等、次から次へとあの手この手の組合活動への行動差止・仮処分・間接強制・損害賠償が掛けられており、組合潰しのための数次の亘る経営の民事訴訟は複雑怪奇を極めていて、少々聞き齧っただけでは、もはやその全体像を把握することさえ困難な例もある。

このような経営側の争議潰しのための不当な損害賠償請求の一局面として、これまでは金融機関の守秘義務として顧客の情報を守ってきた大手銀行だが、経営側弁護士の照会(弁護士法23条の2)に応じて、無断で組合員の預金口座の情報開示を行い、預金口座が差し押さえされるという事態が起こっている。これは弁護士会と大手都市銀行との間で全店照会協定*が締結されたことが大きく影響している。

* 一例として、第二東京弁護士会と三井住友銀行との全店照会協定はこちらを参照。

現状、これは弁護士会と金融機関での取り決めに過ぎないが、2017年9月8日の法務省法制審議会民事執行法部会第11回会議で取り纏められた「民事執行法の改正に関する中間試案」では、債務者の財産開示手続申し立てと手続違背の罰則強化が謳われており、前述したような労働組合の争議行為への民事弾圧攻撃を加速させかねない改悪を含んでいる。また、経済的に弱い立場にある債務者のプライバシーや人権擁護、生活保障の観点からみても強者である債権者の権限を徒らに拡大させるものであると言わざるを得ない。この中間試案には各団体からパブリックコメントが発出されているが、全国ヤミ金融・悪質金融対策会議では、これら主だった改悪内容には明確に反対の意見表明を行っている。

さて、本集会では基調報告と弁護団報告に続き、特別報告「民事執行法改正の問題点」として、全国ヤミ金融・悪質金融対策会議代表幹事である宇都宮健児弁護士からお話を伺った。

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宇都宮健児氏の特別報告「民事執行法改正の問題点」


かつてサラ金・闇金・暴力団と闘った経験では、嫌がらせの街宣行動をやめさせるために、半径何100メートルの街宣禁止の仮処分を裁判所に申し立て、それに違反した場合は間接強制を申し立てていた(一同笑)。ところが、憲法で保障された労働組合の活動にこのような仮処分・間接強制・損賠攻撃が仕掛けられていることを知り、大変驚いている。

長年取り組んできた多重債務者を救済する活動では、30年の法改正運動の結果、出資法の上限金利を段階的に下げさせ、利息制限法との金利の二重規制を解消させてきた。ところが、現在新たな問題も生じていて、サラ金が大手銀行の傘下に入ったことにより、年収の1/3を超える貸付を禁止した貸金業法の適用を受けること無く、銀行が個人向けローンの過剰融資を行っていること。そして、教育費の高騰により、「奨学金」という名の教育ローンによる自己破産が増加していることが各資料から窺える。これが現在日本の貧困を生み出している一つの要因になっている。

この度の民事執行法改正の問題点は、第三者への財産開示の要件緩和については、強制執行が失敗した場合に必要となるという趣旨だが、仮執行宣言付きの判決の場合にもそれが適用されるとなると、後で判決が覆った時に債務者のプライバシーが取り返しのつかない事態になり問題がある。特に、給与差し押さえのための情報開示には断固反対である。給与差し押さえの威嚇効果は甚だしく、経済的弱者である債務者の生活を破壊することにも繋がりかねない。むしろ、開示させるべきなのは会社が保有している株式や社債、投資信託、売掛債権などである。また、手続違背の罰則強化で懲役刑のような過度な刑罰を科すことには反対である。
ただし、改正案にも評価すべき点があり、現行の民事執行法では給与等債権の1/4が差し押さえ可能で、債務者の生存権を脅かすものであったため、改正案では差し押さえの最低限度の金額を決定することには賛成である。

これまで強者であるサラ金・クレジット会社から弱者である多重債務者を守る活動を行ってきたが、同じ様に弱い立場にある労働者・労働組合とは大いに共通するものがある。この集会で取り上げられているような経営側の民事訴訟の濫発によって憲法で保障された労働基本権を侵害する行為は許されることではない。もっと広く市民に理解を得られ、支持される運動に発展させることが重要ではないか。


続いて、各争議報告があり、全日建運輸連帯労組関西地区生コン支部渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合(のじれん)東京ふじせ企画労働組合、連帯労働者組合・大道測量、明治大学生活協同組合労働組合から民事弾圧の実態とその闘いの報告があった。とりわけ、昨今の連帯労組関西生コン支部への大阪広域生コンクリート協同組合の右翼・民族差別排外主義者を使っての組合活動潰しや妨害、嫌がらせは卑劣極まっている。のりこえねっと共同代表でもある宇都宮先生もこれには大きな関心を寄せていた。

本集会には約50名の参加者を得、最後に、集会決議採択と翌日の学研社前行動→東京地裁民事28部への抗議→法務省への民事執行法中間試案への申入行動が提起され、力強いシュプレヒコールで集会を終えた。

…The end

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