私の祖母(1897年-1990年)は字の読み書きが満足にできませんでした。私の田舎では祖母と同世代のお婆さん達も同様だったと思います(お爺さん達はわかりません)。地域差もあるでしょうが、義務教育である尋常小学校は当時からあったとはいえ、「明治」期の田舎に住む女性は十分な教育機会から排除されていたのでしょう。祖母の死後、遺品を整理していたら、小学生用の国語のドリルとノートを見つけ、歳を取っても読み書きの手習いをしていたことがわかりました。

そんな個人的な思い出もあり、識字率向上のためにアフリカ諸国を題材にした啓発映画は多いのですが、現在劇場公開中のパスカル・プリッソン(Pascal Plisson)監督の映画「GOGO(ゴゴ) 94歳の小学生」(原題“GOGO”)を観ました。

GOGO ©Ladybirds Cinena

この映画は、ケニア奥地の小さな村に住んでいる94歳のプリシラ・ステナイ(Priscilah Sitienei)氏が小学校卒業を目指して、子供達と一緒に小学校に通い、勉強しながら、通学困難な児童のための寄宿舎を建設する様子を描くドキュメンタリーです。子供達には部族の言語で「ゴゴ」(カレンジン語で“おばあちゃん”という意味らしい)の愛称で呼ばれ、一緒に勉学に励みます。

なぜ、彼女は御歳90余歳になって小学校に入学しようと思ったのでしょうか? 1923年生まれの彼女は就学の機会を得ることができず(他の女性もそうだった)、2014年においても、彼女の曽孫の女の子が不就学であったことから、自らが小学校での学びを率先して示したのです。
小学校の卒業試験に向けた勉強は歳のせいで目や耳の衰えから大変そうでしたが、子供達と一緒に教室で学び、一緒に修学旅行にも行く姿は微笑ましく、愛らしい。しかし、その一方、自身が進める寄宿舎建設では、工期を厳しくチェックし、建設作業員を叱咤激励する姿は、とても94歳とは思えないほど気丈です。何歳であっても教育と学びは人へ喜びと活き活きとした生をもたらすのです。映画のエンディングでは、“ゴゴ”の親友の同世代の女性は、“ゴゴ”から小学校での様子を聞き、自身も一緒に小学校に入学します。感動的なシーンです。

エンターテイメント要素が少ない地味な映画ですが、ケニアの映像も美しく(それに加え、小学校の制服の緑色のセーターが素敵)、心温まる映画ですので、機会があれば鑑賞されることをお勧めします。教育の機会均等、とりわけ教育の機会を奪われた女性の教育レベルの向上は、次代を担う子供達の就学・教育機会を促し、自由で民主的な社会へのマイルストーンとなるのだと思わされます。
ケニアでの女子教育の現状はまさに、私の亡き祖母の少女時代と重なるものがあります。


さて、別の映画ですが、女性の教育機会と識字率向上に関連してお勧めしたいのは、ユネスコ・アジア文化センター(ACCU)企画制作の短編アニメーション映画「ミナの笑顔」(1993年)です。

ある東南アジアの農村で、字の読み書きや計算ができない女性ミナの夫が病気に罹り、ミナは町に薬をもらいに行くことになりました。町に行く道すがら、ミナは字が読めないことからとても困ってしまいます。そのつらい経験から学校に通い、字の読み書きができるようになるという物語です。
これまで農村の人々が字の読み書きができないことをいいことに、農作物や労働力を搾取していた悪い買付業者を、字の読み書き・計算を学んだミナが打ち負かすシーンがあり、実に痛快です。
私は1980〜90年代に東京都板橋区で開催されていた板橋国際アニメーションフェスティバル(主催:板橋区)で、公開時に1回観ただけでしたが、とても感動し、印象に残った映画でした。

ただ、一般に公開されることがないのが残念です。興味がある方は日本語吹き替え版含め、多言語対応のDVDが入手可能なので、こちらからご注文されてみてはいかがでしょうか。


また、映画ではありませんが、識字と教育機会の均等に関連する書籍として、守口夜間中学編集委員会(編)『学ぶたびくやしく 学ぶたびうれしく』(解放出版社 2010年)を紹介します。
ちなみにこの本は、数年前にとある集会で出会った高野雅夫*氏から、夜間中学を支援するためにカンパとして、直接手渡されて入手した本です。まさか、夜間中学支援運動の代表的活動家である高野雅夫氏から直接声をかけられるとは思ってもみませんでした。

* 高野雅夫氏は21歳で夜間中学・東京荒川九中に入学し、1966年の「夜間中学廃止勧告」に対して果敢に闘った(江沢穂鳥(著)『よみがえれ、中学』岩波書店 1992)。

現在の日本の識字率は男女共99%超ですが、日本国内でも様々な事情によって義務教育を修了できなかった人への「夜間中学」が都市部を中心に設置されています**

** 文部科学省「夜間中学のご案内」

本書は、現在の夜間中学の現状を伝え、就学援助、捕食給食の大阪府補助継続に向けた闘い、夜間中学の学びとは何かを教える、歴史と関係者の証言の書です。6人の夜間中学生の自分史と守口夜間中学教師10人の授業を紹介しています。
2009年度、橋下大阪府知事時代に府負担の夜間中学校への就学援助・補食給食費約1,700万円がカットされました。編著者の高野雅夫氏は補助存続へ向けて先頭に立って闘うのはもちろんのこと、理解が得られそうなところにはどこにでも出掛けて行って、自費出版した本の売り上げを自主財源として夜間中学生基金を創設するために運動されています。それにしても長年にわたり全国行脚を続ける物凄いバイタリティの持ち主です。

戦後の混乱、国家間の軋轢に翻弄され、日本の義務教育を受けられなかった在日朝鮮人や敗戦による棄民政策でやっとの思いで帰国した中国残留邦人、もちろんそれ以外に教育機会を得られなかった人たちの識字教育の場となっている夜間中学校は、この本の体験談で語られているように本当の学ぶために学ぶ、学びたいから学ぶ場です。
教師による夜間中学授業実践記録では、国語・数学・理科・社会どれも受験勉強のための授業ではなく、極めて実社会に根付いた授業で、読んでいて自分ももう一度学ぶ楽しさの原点を知る授業を受けてみたいと思いました。


子供の頃、日本でも字の読み書きができないお婆さん達がいたこと、教育・学びの機会からこぼれ落ちてしまった人が今でもいること、世界にはまだ字の読み書きができない人達がいることを考えると、現代の私たちが不自由なく字の読み書きができることは何と恵まれたことでしょうか。
識字率向上と教育機会の均等、学ぶことの大切さを改めて考えさせられます。

…The end

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