[閑話休題]労働問題2編〜『さぽーと』2019年1月号から〜

『さぽーと』2019年1月号の特集は「医療との連携を考える―ライフステージ・生活場面において―」
障害福祉と医療を結ぶ諸課題を、乳幼児期・児童期・青年期・高齢期のライフステージ毎に整理した実践的論考によって整理し、又、医療的ケア児の在宅訪問看護に携わる看護師から見た地域生活の可能性等、障害のある人達の命を守るには福祉と医療の連携は不可欠であると常々感じているところなので、本特集は大変興味深い記事であった。

特に訪問看護は私自身あまり知識がなかった所為もあり、医療的ケアを必要とする子供達と親御さんの苦労に新たな視点と、それに熱意を持って取り組む看護師の具体的なケアとマネジメントの実践には驚くばかりであった。
医療的ケアの必要な人たちの健康に生きる権利を可視化し、医療格差のない未来に繋げて行ければ良いと思う。

さて、他にも見るべき記事があり、奇しくも本号には今時の労働問題について2編が専門家の視点から論じられている。本記事では大まかにご紹介し、ぜひ本号を手に取ってじっくり読んでいただきたい。

スキルアップQ&A
「LINEを使った情報共有について、夜間や休日の連絡もあり、労務管理上の問題等が心配です」

「スキルアップQ&A」は読者からお寄せいただいた支援現場での疑問、お悩みを専門家やヴェテラン支援者がお答えするコーナー。中々Qネタが集まらないので、毎月連載できるコーナーではないが、有用な「答え」が出る明快さが良い。

今月号のQuestionは…

「グループホームやヘルパー派遣、相談支援等の地域生活支援を総合的に担っている事業所に勤務しています。職員それぞれに担当分けがありますが、横断的にすべての職員が関わっているため、情報共有についてはLINEを使って、できるだけリアルタイムで行うようにしています。お陰で、職員全員が同時に同じ情報を共有できるようになりましたが、時に夜間や休日の連絡もあります。労務管理上の問題や職員のストレス対策などが気になります。」

お答えしているのは、横浜法律事務所の笠置裕亮弁護士。知る人ぞ知る、ブラック企業や労災、未払い残業代に悩む弱い立場の労働者の味方になってくれる、心強い弁護士さんだ。

職場の連絡網は旧態依然とした職場ではLINEやメールなど、もっての外かもしれないが、公式・非公式でも担当部署間の連絡や緊急連絡網に使用しているケースが多いのではなかろうか?
自分も所用のため已むを得ず有給休暇で休んでいる時でも、仕事の進捗が心配で「なんかあったら連絡して!」と、LINEでやり取りしたり、出先でメールでゲラ(校正紙)を送ってもらってチェックしたりすることもあったが、まあ、これは自分がインターネットに繋がりさえすれば何処でも出来る仕事をしている所為もあるだろう。

ところが、これが限度を超えてシステム化されてくると、完全に労働時間外・休日・休憩中に対応を余儀なくされれば指揮命令下にあると見做されて、労働時間に当たると判断される可能性が非常に高くなる。また、勤務時間・休日関係なくひっきりなしにLINE等で業務連絡が来ると労働者によっては大変なストレスになり、過労による心身へのダメージにも繋がることになる。

この辺をどう事業主と労働者でルールづくりをし、労働法令違反のない健全な職場にしていくのか、具体的な解決策が笠置弁護士から提案がされている。お悩みの方も多いことだろうから是非ご一読をお勧めしたい記事である。

今月の切り抜き
「教師の長時間労働は、自主的な残業なのか」

屢々本組合掲示板ブログでも取り上げているコーナー「今月の切り抜き」。今月号は『さぽーと』編集委員(専門委員)の古荘純一教授(青山学院大学教育人間科学部)からの問題提起である。

ナショナルセンター「連合」の調査から、過労死ラインを超える長時間労働を行っていた公立学校の教師の割合は53.4%に達し、富山県の公立中学校の過労死認定されたことなどを取り上げ、文部科学省の教師の長時間労働実態への無理解・無策…いや、それどころか驚くべきことに、文部科学省は教師は自発的に(要するに好きで)時間外労働をしているとみなしていることを取り上げている。

例えば、中央教育審議会「教員の職務について」(教職員給与の在り方に関するワーキンググループ(第8回)議事録・配付資料 20061110日)から引用してみよう。

「現行制度上では、超勤4項目以外の勤務時間外の業務は、超勤4項目の変更をしない限り、業務内容の内容にかかわらず、教員の自発的行為として整理せざるをえない。
このため、勤務時間外で超勤4項目に該当しないような教職員の自発的行為に対しては、公費支給はなじまない。また、公務遂行性が無いことから公務災害補償の対象とならないため、別途、必要に応じて事故等に備えた保険が必要。」

とんでもない官製「ブラック職種」と言えるだろう。

教師を夢見る多くの学生を送り出す古荘先生にとって、忸怩たる思いがこのコラムからも滲み出ている。
古荘先生のまとめの文章の一部を引用させて頂く。

「教師の労働環境は、他職種と比較しても「ブラックな職種」と言えるのではないだろうか。」

「教師になる希望を持っている学生が、教育実習に行き、教える立場として現場を見ることで、理想と現実の大きなギャップを実感することも多いようだ。実際、教員になっても大学卒後3年以内に半数近くが離職するという。」

「…文部科学省自体が「ブラックな職場」であり、国民に奉仕するという崇高な理念の下「自主的に残業」を行っているのだろう。しかし、教員個人の立場や、現場の判断で改革できることは限られている。文部科学省は、教師の長時間労働について、真摯に検討し、改善策を打ち出すべきではないか。」


障害福祉施設関係者が読む雑誌である『さぽーと—知的障害福祉研究—』で、外部の執筆陣が、昨今の労働問題に目を向けざるを得ない状況にある。即ち、社会福祉(ソーシャル・ワーク)と労働問題は切っても切れない関係にあることがじわじわと問題提起され始めているのだ。

その足元の協会事務局がデタラメな人事労務管理を行っていたり、幼稚な権力欲や自己保身から対等な労使関係を毛嫌いし、労働者の権利を一顧だにしない、その反福祉的な感性、前時代的人権感覚はどうしたものか。

協会事務局管理職の君達。ちゃんと『さぽーと』読んでるかい?

…The end

[閑話休題]労働問題2編〜『さぽーと』2019年1月号から〜」への2件のフィードバック

  1. 林武文

    障害当事者の労働問題、福祉労働者の労働問題に向き合うかどうかが、福祉団体か業界団体かを分けるメルクマールではないでしょうか?現実の労働問題に向き合わずに福祉専門職団体を標榜することは詐欺的な行為だと思います。職能団体は自らの地位向上のために活動していますが、それは労働組合との協働ではなく、政権与党に与し国の政策に積極的に関与するものでした。
    そのような団体の専門職養成は、ソーシャルワークからはかけ離れてしまいます。

    知的障害者福祉協会(職能団体かどうかは別として)が労働基本権に触れずにディーセントワークを語るように、現実の社会問題を全くスルーして社会福祉を語る社会福祉法人もあります。
    社会福祉を語れば語るほど日本社会の現実を覆い隠す。天皇のお言葉と同じ役割を果たしています。協会には、歴史ある知的障害福祉のオピニオンリーダーとして、日本社会と自組織の労働問題にしっかり向き合って欲しいです。

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    1. jaidunion

      いや〜、最近は「ディーセント・ワーク」という言葉すら、『さぽーと』誌に登場しなくなりましたね。「ディーセント・ワーク」とは何かと問われても、答えられる事務局員は果たして何人いることやら…。

      先日のNHK教育テレビの「バリバラ」は、ベトナム人外国人技能実習生の悲惨な労働実態と日本人悪質経営者を追及する放送内容で、涙と怒り無しには見られませんでした。

      http://www6.nhk.or.jp/baribara/lineup/single.html?i=959#top

      そして、福祉に携わるジャーナリスト・番組制作者としての矜持を見た思いでした。

      さて、機関誌発行・出版事業を行う日本知的障害者福祉協会には社会福祉に携わる団体としてのジャーナリズムの矜持は持ち合わせているのでしょうか?
      外部の識者から問題提起されなければ、機関誌で取り上げられないのはあまりに情けないと思います。

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