『さぽーと』2017年1月号の特集は「自分らしく生きたい-意思決定支援について-」。少々わかりにくい特集タイトルだが、実際に意思決定支援を福祉現場の具体的な支援に落とし込んでいく前段階として、今一度の概念整理をして考えたい方には有用な特集だったように思う。

『さぽーと』2017年1月号(No.720)特集「自分らしく生きたい―意思決定支援について―」
概要は、佐藤彰一氏の支援された意思決定に基づく知的障害者支援現場への問いかけ、服部敏寛氏の入所施設での利用者の意思決定を尊重した実践、中村真由美氏のオーストラリアのSDM(Supported Decision-Making)プロジェクトの報告から成年後見制度との関係、そして菊本圭一氏の相談支援の現場から意思決定を支える体制整備と人材育成について。特に、菊本氏の
「現状の委託を受けた事業所は計画相談に追われて、基本相談に割ける時間が著しく減少している。そのため、意思の表明や自己決定がしにくい人への支援が、後回しにされる危険性を感じているのは、私だけではないであろう。意思決定に支援が必要な人への環境づくりは、委託事業所による基本相談で担保されるべきだと考えている。
本来、相談支援の掲げてきた理念では、計画相談においても基本相談によるプロセスを十分に経て、計画の作成が行わなければならないのだが、その理念からは程遠い現状になってしまったように感じている。」
については、基本相談の重要性は以前から言われていたことであり、あらためて首肯される問題提起である。
知的障害者支援の現場から「わたしたちは利用者の“意思決定”に基づいて支援してきた。これまでと何が違うのか」との声も聞く。ストレングス視点に立ち、障害当事者のエンパワメントを増大向上させる良質な支援をされている福祉実践者にとっては、利用者本位の支援は至極自然な取り組みだろう。このたびの「意思決定支援」は是々斯様な支援方法を指すのではなく、まず初めに障害(者)観を転換する思考の枠組みと解されるべきで、それをいかに実際の支援現場・実社会・制度施策に広げていくかではないか。これまでも、理念としての支援された意思決定と、具体化された関わり・制度としての支援された意思決定は分けて考えられるているが、単に一支援方法と解釈されるよりもその方が良いと思うし、かといって理念先行の空疎なラディカリズムとなるべきでもない。そして、Substitute Decision-Making(代行された意思決定)を安易に best interestsとせずに、どのような人・どのようなシビアな状況において行わざるを得ないのか…等々、考えさせられる。
前から思っているのだが、Supported Decision-Makingの訳語を「意思決定支援」とするのは果たして妥当なのだろうか。私個人としては「支援された意思決定」または「支援付き意思決定」と訳される方が概念の混乱を避けるためにも良いように思うのだが。

『季刊 福祉労働』No.152 特集「今なぜ、成年後見制度利用促進か?」
さて、併せて考えたいのは成年後見制度であるが、特に昨年成立した「成年後見制度の利用の促進に関する法律」である。この法律については、残念なことに『さぽーと』2017年1月号の特集ではあまり触れられてはいない(自分が編集に携わっていてこんなことを言うのもなんだが)。障害者観のパラダイム転換を迫る国際的な潮流として支援された意思決定が提唱されている中、なぜ成年後見制度の利用促進なのか。日本の成年後見制度における代行決定は、last resortとして残さざるを得ないことは現実問題として理解できなくはないものの、やはり、意思決定能力の不存在推定を前提とした制限行為能力制度や法定代理権制度によって、支援者とその支援のあり方によって判断能力のある人の自己決定権まで奪ってしまうのはいかがなものか。『季刊 福祉労働』No.152では「今なぜ、成年後見制度利用促進か?」が特集されており、併せて読まれたい。
また、法曹界においては、東京弁護士会・第一東京弁護士会・第二東京弁護士会の主催で「意思決定支援推進全国キャラバン in 東京~認知症や障がいのある人の意思決定を支える仕組みと実践手法を考える」シンポジウムが、2017年3月25日(土)に催されるようで、こちらも支援された意思決定をどのように具体的な施策に組み込むか、司法と福祉関係者の連携した取り組みが興味深く、稔りある議論を期待したい。■
† アイキャッチ画像は特集とは関係ないが、好きなイラスト。“Equality in decision-making”
from Disabled Village Children A guide for community health workers, rehabilitation workers, and families By David Werner †
…The end