新型コロナウイルスによって、国内感染者数は962人で、重症者56人、死者12人となった(「特設サイト 新型コロナウイルス」NHKまとめ・3月2日現在)。
3月2日からの小・中・高等学校の一斉休校が突然発表されたり、各種イベントが中止になったりしている。協会も2月18日に3月4〜5日の部会協議会の開催を中止にした。
しかし、少々騒ぎ過ぎなんじゃないかという感じもしなくはない。マスクは固より、デマによって、衛生用品・日用品が店頭から消えるということまで起こっている。
確かに感染力が強く、新型で未知のウイルスではあるが、SARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)に比べて致死率は低く、毎年流行する季節性のインフルエンザ・ウイルスの方が遥かに死者数が多い。実際、季節性インフルエンザ・ウイルスにより、2019年1月の死者数は1,685人*にも上った。
感染拡大の防止はやらなくてはならないことだが、恐怖や不安に煽られる社会心理にも目を向けるべきだろう。今こそ一旦冷静になって、我々は情報リテラシー・ヘルスリテラシーを高める必要があるのではないか。
…とは思いつつも、現在、そんなことを言っていられない状況にあり、我々の働く環境にも影響が及んでいる。出張禁止や時差出勤、テレワークなどを導入する企業も出てきている。
そして、もし、運悪く感染症に罹り、使用者側から就業禁止を通告された場合、その間の賃金保障・生活保障はどうなるのか、気になるところだ。
†(2020.3.3追記)「何を暢気な…今、入所施設で感染者が出たら、利用者支援体制が崩壊するぞ!」という御尤もな指摘を受けたので言い訳しますが、基本的に本組合掲示板ブログは東京に事務所を置く、協会事務局職員向け、且つ、労働者の立場から書いています。今、正に福祉施設の現場で、慢性的な人員不足の中、必死に利用者支援を行いながら、新たな感染症対策という困難な問題に向き合っている福祉施設の職員の増員・確保施策など、喫緊の課題であることは言うまでもありません。†
‡(2020.3.5追記)新型コロナウイルスに関する各労働組合や福祉団体の談話や政府要望、取り組みはこちらにまとめました。‡
厚生労働省から、企業側と労働者側への新型コロナウイルスに関するQ&Aが発出された。労働安全衛生を考える上でも基本的な情報になる。
「新型コロナウイルスに関するQ&A(企業の方向け)」
「新型コロナウイルスに関するQ&A(労働者の方向け)」
また、労働新聞社のWeb Siteには「新型コロナウイルスの企業対応・労務管理」が掲載されているので、こちらも参考にされたい。
新型コロナウイルスは2020年2月から感染症法(「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」)上の指定感染症**になった。***
新型コロナウイルスに感染し、就業禁止になった場合、その間の我々労働者の賃金や休業補償はどうなるのかということなのだが、感染症法に基づき、都道府県知事が該当する労働者に対して就業制限や入院(公費負担)の勧告等を行うことができるとされることから、使用者の責に帰す事由とはならず、不可抗力である為、使用者側は給与の支払いや平均賃金の60%以上の休業手当(労基法26条)の支払い義務はない。
しかし、社会保険の傷病手当金は受けられるので、連続した3日間の待期期間を経て、支給開始日以前12ヵ月間の各標準報酬月額の平均額の30分の1に相当する額(10円未満四捨五入)を3分の2(1円未満四捨五入)した金額が1日につき支給される。
** 第6条 8 この法律において「指定感染症」とは、既に知られている感染性の疾病(一類感染症、二類感染症、三類感染症及び新型インフルエンザ等感染症を除く。)であって、第三章から第七章までの規定の全部又は一部を準用しなければ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう。
*** 「新型コロナウイルスを指定感染症として定める等の政令等(施行通知)」厚生労働省健康局長通知(健発0128第5号 令和2年1月28日)
さて、協会の就業規則には、
(就業禁止)
第45条 職員が伝染病及び精神病その他これに類する疾患にかかった場合又はその疑いがある場合は医師の診断に基づき、その者の就業を禁止することがある。
と、就業禁止事項が定められている。
この事項は以前からあり、労働安全衛生法68条・労働安全衛生規則61条に基づくものと思われるが、同法・同規則は感染症法による就業制限に該当しない場合であって、ポイントは「医師の診断に基づき」である。
「医師の診断に基づ」く場合は、「使用者の責に帰すべき事由」に当たらず、給与や休業手当の支払い義務はない。よって、職員は自主的に年次有給休暇を取得するか、前述の傷病手当金の申請をするしかない。
しかし、協会が「医師の診断に基づ」かず、感染症法上の就業制限に当たらない感染症に罹った労働者を自主的な判断で就業禁止にした場合は、協会の都合なので休業手当を支払わなければならない。
なお、使用者が強制的に労働者に年次有給休暇を取得させることはできないことも覚えておこう。
事業継続の観点から見ると、協会は知的障害福祉施設の事業継続計画(BCP)のモデルを示しているが、協会事務局は例の如く「灯台下暗し」。我が組合に不備を突っ込まれて、初めて三六協定を締結したり、就業規則等を改定したりと、業務の実情に適った細やかな就業環境の整備を自分達で考えようとせず、弁護士や社会保険労務士に丸投げ(それをする様になったから、以前に比べればマシになったとも言えるが)、後は野となれ山となれ、その場のノリと勢いでやっているので、万が一の感染症パンデミックによる協会事務局の業務遂行、協会事業の継続の危機を視野に入れた、事務局職員のフレックスタイム制やテレワークの導入など、協会事務局管理職の脳裏も掠めないことだろう。
「転禍為福」****これを契機に、協会事業の継続、事務局職員・労働者の安全衛生面への配慮も今後の要求課題としていく。■
**** (蘇秦列伝 第九)「臣聞く、古の善く事を制する者は、禍を転じて福と為し、敗に因りて功を為す」/蘇秦「古えのよく事を制する者は、禍いを転じて福とし、敗れをしおに功とするとうけたまわります」──司馬遷(著)/小川環樹・今鷹真・福島吉彦(訳)『史記列伝(一)』岩波書店 1975年
…The end