前回団交報告記事part 1に続くpart 2では、就業規則変更案に係る交渉の経過を記し、更に続くpart 3において、当該組合員による理論的・思想的批判を展開する予定である。
交渉過程を見て行こう。
2.就業規則 第3条2
2020年11月27日の協会の回答(以下、回答と略)では、「職員は、本会の公共的使命を理解するとともに、この規則を守り上司の命令に忠実に従って事務局の秩序を維持し相互に協力してその職責を遂行するよう務めなければならない。」と「忠実に」を削除するとのことであった。
前回団交では、一般的な就業規則にも見られるこの条項は、労働基準法第2条に明文化されている、労使対等原則に基づき、労使双方が就業規則及び労働契約にのみ拘束されることを規定したものであることを示し、「上司の命令」などという属人的で恣意的な命令に「忠実に」(有無を言わさず)従うことを明記することは、法の趣旨に反することを主張した。
この様な規定があることによって、これまでの実例も挙げ、末吉事務局長や水内事業課課長代理が規定にも無い様な、個人的な価値観やその場の気分で己の独善的な考えを「業務命令」と称して、その理由や根拠を尋ねても答えずに「部下」に押し付けてくることが度々あったこと。職場の円滑な業務遂行に混乱を齎し、職員の業務への主体的な取り組み意欲を阻害する上に、「上司」という職位を背景にした職場のハラスメント問題の根本原因であることを指摘したところだった。
よって、この条項については、協会が公益法人であることに鑑み、百歩譲って「本会の公共的使命を理解するとともに」(勿論、これは労働者側だけでなく使用者側にも言えることだ)は許容するとしても、「上司の命令」以下の文言を削除し、「職員は、本会の公共的使命を理解し、この規則を遵守しなければならない。」に改めることを要求した。
ところが、前回団交で協会は渋っていたが、結局、回答では「忠実に」だけを削除するとし、「上司の命令」云々は残されたままだった。
我が組合は再度、「上司の命令に従うのか?規則に従うのか?我々は就業規則に従わなければならないんじゃないか?」「属人的な規定を就業規則に明記することはあってはならない」「権利という観点から見れば、これはただの組織論理を上に置くことでしかなく、公益的な福祉団体として相応しくない」と協会の無理解を指摘したが、協会は「指揮命令系統に従わなければならないのは当然だから問題ない」「上司の違法な命令に従うことはない」と前回同様の返答だった。
これも前回団交で言ったことだが、指揮命令系統に関わる規定は就業規則の服務規程や事務局規程にも記されていることだ。それに、上司の違法な命令に従うことはないと言うのならば、該当箇所を削除したことろで全く問題ない筈である。そもそも、労使対等原則に基づく就業規則遵守を謳う上位規定であるこの条項に「上司の命令」云々が入っていること自体おかしいし、それを削除したところで「規定に記されていないから、上司の命令や業務命令に従いません」なんて言い出す職員がいるかねぇ?(笑)
3.就業規則 第6条2(2)
回答では「職員の能力・性格等が本会の業務内容に適さないと判断された場合」と「性格」を削除するとのことだった。
前回団交では、色々問題あれど、特に「本会の業務に適さない」「性格」って何ですか?と我が組合が突っ込んだところ、協会は答えに窮していた為に、「性格」だけを削除することにした様だが、ズラズラといい大人に言う様なことじゃない(子供を職員として採用するんじゃないんだからさ…)ことが列挙されていて、しかも、職員個々のコンピテンスやモティヴェーションを育成・向上させようという視点に欠けているのが問題なのだ。
この様な観点から見た場合、実は現行の就業規則の方がまだマシなのである。
現行の就業規則の当該条項と変更案を併記してみよう。
(現行)
第6条 第2条第1項の職員として採用した者は 、その職において採用の日から起算して6箇月間を試用期間とし、良好な成績で勤務したときに正式採用として辞令を発令する。
2 試用期間は勤務年数に通算する。
(変更案)
第6条 第2条第1項の職員として採用した者は 、その職において採用の日から起算して6箇月間を試用期間とする 。
2 前項の試用期間中又は試用期間満了の際、下記内容に該当し、本会が職員として不適当と認めた者は本採用しない 。
(1) 挨拶ができない、身だしなみが悪いなど、本会の注意にもかかわらず、基本的マナーが改善されない場合
(2) 職員の能力・性格等が本会の業務内容に適さないと判断された場合
(3) 重要な経歴を偽り学歴・職業等、又は面接等で申し述べた事項が事実と著しく異なる場合
(4) 有資格者、経験者としての必要とされる能力に足りず、改善の見込みも薄い場合
(5) 勤務態度が悪い場合(指示に従わない ・ 協調性の欠如・ 勤務意欲の欠如等)
(6) 健康状態が悪く業務に耐えられない場合
(7) 必要書類を提出しない場合
(8) その他、職員としてふさわしくないと認められる場合
3 試用期間は勤務年数に通算する。
変更案では現行就業規則にある「良好な成績で勤務したときに正式採用」が削除された代わりに、この様な使用者側の主観でどうとでも解釈できるような項目を含む、くだらない条項を列挙しているのだ。大体、就業規則の禁止事項や制裁、解雇について別に定められており、それを適用すればいいだけの話だろう。態々、これでもか!というくらいしつこく付け加えるとは、協会は労働者というか人をどういう目で見ているのかということだ。
協会に採用された新職員はこれを見てどう思うだろうか? 協会は人材をこの様な目で見て、「なんだ?この職場は。減点方式のネガティブ人事評価なのか…」と思って、この職場で将来やって行けるのか不安になり、やる気も失せるのではないか?
現行就業規則にある「良好な成績」を奨励し、ポジティブな側面で職員を育成しようという視点から一転、悪いところを見つけてやろうというネガティブな評価基準は、労働者(労働力)をコストと捉える旧い人事・労務管理の視点であり、昨今の労働者を人的資源と捉え、意欲向上やキャリアアップ、育成が組織の経営戦略にとって重要な課題とする人的資源管理(Human Resource Management)の視点へ、という時代の流れに逆行するものでもある。
協会顧問弁護士は客観的な基準を設ける方がトラブルにならなくて済むという様なことを話していたが、いずれにせよ、本採用を見送られたり、況してや解雇ということになれば、個別具体的な事由が必要であることに変わりない。
しかし、法律家がそういう視点で人や物事を見てしまうのは仕方が無いとしても、先の就業規則第3条2と同様に、公益法人であって、社会福祉実践団体である、この就業規則を運用する協会の人間観や価値観が問われるのである。
よって、一言削除ではなく、現行のままとすることをあらためて要求した。
4.就業規則 第48条
回答では「次の各号のいずれかに該当する場合で、主治医・かかりつけ医の診断も考慮して不足と認める場合は、本会は職員に対し、本会の指定する医師の健康診断を受けさせることがある。なお、これは業務上の必要性に基づくものであるため、職員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。」と「で、主治医・かかりつけ医の診断も考慮して不足と認める場合は、」を追加するとのことであった。
前回団交で、協会は職員の主治医・かかりつけ医の診断を否定するものではないということであったが、元の変更案の追加条項ではそれが読み取れず、それを協会が追加した形だ。これはこれで我が組合の要求を汲んでくれたものと評価できるが、では、誰が?「不足と認める」のかという疑問が残る。
これについて協会に「産業医か?管理者である末吉事務局長か?」と質したところ、「産業医は今後探す(当該註:従業員の規模からいって法的な義務ではない)」「末吉ではなく、最終決定権限を持つ会長」とのことだった。
病気により就業困難になった職員にとって、共に治療方針を探ってきた当事者である職員とその主治医との関係性を顧みることなく、使用者側に一方的に「不足と認める」と判断されてはかなわない。もし、主治医と指定医との見解が喰い違ったものとなった場合に、当事者である職員と主治医は勿論のこと、当該職員と職場との信頼関係も損なわれるという事態にもなりかねない。そして、その被害を一番被ることになるのは当の職員である。
そこで、我が組合は「職員と協議の上、本会の指定する医師の健康診断を受けさせることがある」とし、「なお、これは業務上の必要性に基づくものであるため、職員は正当な理由なくこれを拒むことはできない」を削除するように再検討を要求した。
尚、これは本団交後に判ったことだが、本団交に参加してくださった南部労組H特別執行委員の職場である社会福祉法人同愛会・日の出福祉園の就業規則変更においても、協会と同様の規定が追加された様で、これについて職員組合「ゆにおん同愛会」のブログ「なんくるブログ」でも、その問題点を指摘しているので、是非ご覧いただきたい。
「4月施行予定の新就業規則案の問題点(その5)―正規職員・契約職員共通の問題―」
本当はもっと細かく議論を詰めて行きたかったのだが、段々、団交の終了時間が迫って来た為、かなり駆け足となった。
また、本記事も長くなったので、残り議題については次回part 3で。■