公平・公正で民主的な労働者代表選出方法について
前回団交では時間切れとなり協議できなかったが、我が組合が2020年9月9日付で末吉事務局長宛に提出した「公平・公正で民主的な労働者代表選出のための投票方式の提案書」(以下、提案書と略)について、協会に全く検討すらされていないことから*、これについて誠実な回答をしないのは何故か?と問い質した。
* この協会の対応については、本組合掲示板ブログの下記の記事を参照のこと。
「[職場闘争・告知]組合の度重なる要求を無視し続ける日本知的障害者福祉協会 & 第11回団交日程が決まる」
これに対し、古屋総務課長は、当該組合員から職員に提案すればいい、それを決めるのは職員、とこれまでと同じ返答であった。
しかし、第9回団交で提案があるならば出してくれ、それについて検討すると言ったのは、そもそも協会である。協会が言っている回答なるものは、ただ協会のこれまでの言い分を繰り返しているに過ぎない。検討するということは提出した提案書の内容について吟味し、労働者代表選出にあたり、より良い公平・公正・民主的な手続きを労使で考えていくかという実質的な過程を意味する**。
大体、現在行われている挙手による労働者代表選出だって、当時の協会顧問弁護士の助言によって、“たまたま”そうしただけだろうが。そして、その都度、当該組合員はそれについて抗議している。
** これについては、第10回団交でも議題として取り上げた。本組合掲示板ブログの下記の記事を参照頂きたい。
「[職場闘争]第10回団交報告 epilogue 〜「選挙」ってなんだ〜」
再び堂々巡りの議論になるかという流れになりそうだったが、O常任理事はちゃんと検討し、我が組合に回答する、とのことだった。
エンパワメントとストレングス・モデル
さて、今回の団交から南部労組特別執行委員として参加頂いたH氏から、さすがと言うか、至極当然と言うか、日本知的障害者福祉協会事務局の団体交渉ならでは、否、一般企業でもあって良いだろうが、なかなかこういう視点での使用者側との交渉はできないだろうという、正鵠を射る発言があったので記しておきたい。
それは、本団交報告part 2で述べた協会の就業規則変更案全体に通底する協会の人間観や価値観が透けて見える条項についてである。
(南部労組特別執行委員H) 具体的条件をこうやって列挙すると、典型的な駄目出し減点方式で、そういうふうに職員を見てるのかと、今の支援っていうのは、ストレングス・モデルでエンパワメントするんですよね。
(協会顧問弁護士) 今回の書きぶりだと、原則本採用で、例外的にこういった場合には採用しないっていう形に。
(南部労組特別執行委員H) でも試用期間中ですから。試用期間中だからこそストレングス・モデルじゃないと駄目なんじゃないですかね。まさに現行の「良好な成績で勤務したときに辞令を発令する」というのは、本当にストレングス・モデルですよ。とってもいい規定だと思いますよ。減点方式じゃない。駄目出しじゃない。なんでこんなにせっかくいい規定をこんな駄目出しの減点方式に。わざわざ列挙してまで。
(O常任理事) 駄目出しの減点方式ではなくて、当然、この水準にある人を採用するわけですから、恐らく、よもやその条件に合致する、あなたは合致するんじゃないですかって目で見るのではなくて、最低条件を示してるわけですよね。
と、この様な遣り取りがあった。
駄目出しのマイナス評価で、それが最低基準ならば探そうと思えばもっとある筈だが、そんなことをしていてもキリがないし、大体において、そんなことに血眼になるなんて本当に職員を採用・育成していこうという姿勢とは程遠い。それに「髭を生やしている」を理由にマイナス評価したり、「上司の命令に忠実」***を大原則とする協会にそういうことをやられたら、とても働きづらい職場になることは火を見るよりも明らか…というか、現にそうである。
ここはH特別執行委員がいみじくも指摘した様に、人のエンパワメント(empowerment)を引き出す、ストレングス・モデル(strength model)が大切なのである。
*** 「忠実に」は削除するとのことだったので、よもや逆戻りすることはないと思うが、これを見てどうしても脳裏をかすめてしまうのは、ナチス親衛隊のモットー「忠誠こそ我が名誉(Meine Ehre heißt Treue)」だ。
解っているのか解っていないのか、協会の反応はぱっとしないものだったし、折角なので、社会福祉実践団体である(筈の)協会事務局職員に向けて、当該が知り得る範囲でエンパワメントとストレングス・モデルについて簡単に説明する。

Solomon, B. B.“Black Empowerment: Social Work in Oppressed Communities”Columbia University Press 1976
エンパワメント(empowerment)とは日本語に直訳すれば「力をつけさせること」という意味になろうが、エンパワメント概念は、社会的に排除・差別された人々が権利や生活を得る力を取り戻すという意味合いで使われるようになり、特にアメリカにおいて、1950年代からの公民権運動、1960〜1970年代のベトナム反戦、フェミニズム運動等の社会運動の興隆で、ソーシャル・アクション(social action)による政治的な活動を含む言葉として使われるようになった。とりわけ、アフリカ系アメリカ人への差別が未だに激しかった1970年代に、アフリカ系アメリカ人に関する研究を行ったソーシャルワーカーのB・ソロモン(Solomon, B. B.)は著書“ Black Empowerment: Social Work in Oppressed Communities”においてエンパワメント概念を
「ソーシャルワーカーがクライエントと共に一連の活動に従事する過程であり、その目標は、スティグマ(stigma)を負わされた集団の構成員に存在する否定的な価値付けから生じているカ (power)の喪失を軽減することである。それには間接的にカの障壁となっているものの影響を削減し、あるいは直接的に力の障壁となっているものの作用を削減する目的で特定の戦略を開発・実行するのと同時に、力の障壁となる問題を見定めることが含まれる」
と述べている。「黒人」や「障害者」といったスティグマを負わされ、差別や偏見の対象となった人々に存在する否定的な価値付けから生じている力の障壁を取り除き、そこから脱するための一連の支援を説き、エンパワメントによる地域社会でのソーシャルワークを提起した。
我が国の障害福祉施策においては、例えば、1995年6月、厚生省で障害者ケアマネジメント検討会が発足し、1998年の障害者ケアマネジメント体制整備推進事業の施行、2002年には「障害者ケアガイドライン」が策定され、その中で、
「障害者が基本的人権をもつ一人の人間として地域の中で、市民として普通の生活を営んでいける社会を構築していくことが必要であり、このため障害者福祉に求められる基本的な考え方としては「ノーマライゼーション」、「生活の質(QOL)」、「リハビリテーション」があります。その際、サービス利用者が自分の問題を解決するにあたり、自分が主体者であることを自覚するように支援し、利用者自身が自分に自信がもてるように本人の長所、強さを伸ばしていく、いわゆるエンパワメントの視点が求められます」
とされたことは、従来の障害児(者)教育・福祉において、“できないことをできるようにする”という観点が強調され、当事者がパワーレス(powerless)な状況に置かれていたことを鑑みるに、ノーマライゼーション(normalization)理念の浸透と共に画期的な転換であったと言える。
エンパワメント概念と関連して、前述の社会的排除の対象となった人々へのストレングス・モデルについても言及しておかなければならない。
C・ラップ(Rapp, C. A.)とR・ゴスチャ(Goscha, R. J.)は著書『ストレングスモデル』(原題:“The Strengths Model: A Recovery-Oriented Approach to Mental Health Services”)で、主に精神障害者の地域生活支援において、ストレングス・モデルの目的として、「人々は地域で普通に相互依存的に生活し、楽しみ、働きたい。ストレングスモデルのケースマネジメントは人々がそれぞれに設定した目標を達成できるように支援する」とし、6つの原則を示した。
原則1:精神障害者はリカバリーし、生活を改善し高めることができる。
原則2:焦点は欠陥ではなく個人のストレングスである。
原則3:地域を資源のオアシスとしてとらえる。
原則4:クライエントこそが支援過程の監督者である。
原則5:ケースマネジャーとクライエントの関係性が根本であり本質である。
原則6:われわれの仕事の主要な場所は地域である。
地域社会を基盤としたクライエントの生活点に立脚してストレングスを見出し、ソーシャルワーカーはそれを発揮できるように働きかけることが求められるとしている。
国も「地域共生」を推進している昨今において、できないこと探しとその克服から当事者が持っているストレングスをディスエンパワメント(disempowerment)するのではなく、その人のエンパワーを引き出す支援こそが、真に地域共生への足掛かりとなる。
この様な視点に基づく当事者と共に歩む支援者の働きこそ、「ソーシャルワークのグローバル定義」(IFSW/IASSW 2014)に謳われる「ソーシャルワーク専門職は、人間の福利の増進を目指して、社会の変革を進め、人間関係における問題解決を図り、人々のエンパワーメントと解放を促していく」に繋がっているのである。
就業規則と何の関係があるのか…と思うかもしれないが、これは障害当事者と支援者の関係にのみ収斂することではない。既存の支配-被支配という当事者-支援者の関係から新たな人間観や価値観を我々に与える視点を提供してくれてもいるのだ。
人をエンパワメントするものとしてのストレングス・モデルが示した一つの指標は、職員の問題や弱点、欠点ではなく、長所や強み、願望に目を向けること、減点方式のマイナス人事評価ではなく、固有のかけがえなのない個人としての労働者と職場という集団・社会とのダイナミックな関係において、信頼関係の形成と向上を促し、人と組織が絶えず何かを成し遂げていく為の重要な視点を持つべきであるということである。
ソーシャルワーク云々を語る日本知的障害者福祉協会がこの様な視点を持たず、足元の事務局において、労働者を無力(powerless)な存在として規定するようなことがあってはならない。機関誌その他でどんな「綺麗事」を言ったところで、協会会員も鼻白む思いではないか。この度の南部労組H特別執行委員(協会会員施設の職員としても)の発言もその様な背景に基づいた、心よりの期待から発せられたものと察せられる。
会長の井上さん、どう思います?
次回団交予告
団交時間が15分程延長になったので、本団交での再要求は2月中旬に協会は回答を寄越すとのことで、その回答を踏まえた協議と時間切れとなった残り議題は次回の団交で、ということになった。
次回団交は3月8日(月)18:00からを予定している。
協会事務局職員の皆さん、言いたくても言えなかった就業規則変更案に物申したいことがあったら、遠慮なく我が組合に連絡頂きたい。
要求実現に向けて共に闘おう!無責任にも団交から逃げ回っている末吉事務局長を次回団交には引っ張り出そう!■
† 第12回団体交渉のテキスト反訳をお読みになりたい方は、お名前・所属・目的を明記の上ご連絡ください。PDFファイルをお送りいたします(場合によってはご希望に添えないこともあります)。†
…The end