
『さぽーと』2020年9月号
1ページの小コラムながら実に興味深い記事が『さぽーと』2020年9月号に掲載されたので、久しぶりに[閑話休題]シリーズとして紹介したい。
執筆されているのは、月刊誌『さぽーと』の編集委員の専門委員(施設現場の編集委員ではなく、学識者・他領域の専門家)である手嶋雅史教授(椙山女学園大学)で、先生は障害福祉施設の現場経験もあり、専門領域は社会福祉学ではあるが、これまでも、本コラム「専門委員の視点から」(旧「今月の切り抜き」)で知的障害福祉の領域に限らず、時事的な社会問題等に切り込むテーマでご執筆頂いている。

日本知的障害者編集出版企画委員会(編)『現場実践から学ぶ指摘障害児・者支援[困難事例 編]』日本知的障害者福祉協会 2014年
また、当該組合員が編集を担当した協会発行の『現場実践から学ぶ知的障害児・者支援[困難事例編]』(2014年刊)でセレクトした数例の事例研究の誌上スーパーヴァイズを担当してくださった。
本コラムは専門委員が特集テーマ等に縛られることなく、自由に書いて頂けるコーナーなので、掲載内容の多少の事前調整はするものの、編集者である当該組合員も、どんな原稿が来るのか直前まで解らない場合もあり、今回原稿整理をする際に、頂戴した原稿に目を通し、手嶋先生の原稿がどうこうではなく、これが『さぽーと』誌に載るかと思うと、「うゎ、これは…www」と思わず笑ってしまったのであった。協会事務局にとって、正に“ブーメラン”*だったからである。
*ご存知無い方もいらっしゃるかもしれないが、「お前が言うな」的なネットスラング。あまり好きな表現ではないが…。
お題は「大人のいじめを防止する」で、日本国内で職場のパワーハラスメント対策が法制化、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)が改正され、パワーハラスメントの防止のために、雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の措置義務とされた(2020年6月1日施行、中小事業主は現在努力義務だが、2022年4月1日から義務化)こと**、そして、国際労働機関(ILO)による「2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)」の採択、日本政府は条約の採択に賛成したものの、批准には至らなかったことから、諸外国での例を挙げ***、ILOの調査報告(2018)****から、条約批准に向けての禁止・罰則規定を含めた国内法整備の必要を論じている。
職場のハラスメントは労働者の差別的取り扱いであり、人格権の侵害、平たく言えば「大人のいじめ」でしかないものであることから、『さぽーと』誌の主な読者の職場である福祉施設でも、世界の潮流と国内法施行を鑑みて、古い職場の慣習を見直し、本コラムをお読みになって、職員の労働環境の改善への取り組みの一助となることを願う。
** 第30条の二 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 事業主は、労働者が前項の相談を行つたこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
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第30条の三 国は、労働者の就業環境を害する前条第一項に規定する言動を行つてはならないことその他当該言動に起因する問題(以下この条において「優越的言動問題」という。)に対する事業主その他国民一般の関心と理解を深めるため、広報活動、啓発活動その他の措置を講ずるように努めなければならない。
2 事業主は、優越的言動問題に対するその雇用する労働者の関心と理解を深めるとともに、当該労働者が他の労働者に対する言動に必要な注意を払うよう、研修の実施その他の必要な配慮をするほか、国の講ずる前項の措置に協力するように努めなければならない。
3 事業主(その者が法人である場合にあつては、その役員)は、自らも、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、労働者に対する言動に必要な注意を払うように努めなければならない。
4 労働者は、優越的言動問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に必要な注意を払うとともに、事業主の講ずる前条第一項の措置に協力するように努めなければならない。
*** 厚生労働省・職場のパワーハラスメント防止対策についての検討会(第5回)「資料6 職場のいじめ・嫌がらせに関する諸外国の取組」
**** ILO “Ending violence and harassment against women and men in the world of work”
本組合掲示板ブログでも過去に、日本労働弁護団が主催した、2019年4月25日に開催されたILOハラスメント禁止条約批准に向けた集会を取り上げ、国内での「パワーハラスメント防止法」制定の動向を報告した。*****
***** 4・25「ILOハラスメント禁止条約を批准しよう〜ハラスメント対策後進国と呼ばれないために〜」報告/5・19「職場のハラスメントホットライン」のお知らせ
その後、改正労働者施策総合推進法が成立し、2020年6月1日から施行となったが、先の集会報告記事でも論じた様に、この改正法には具体的な禁止規定や使用者への罰則規定が無く、その実効性に疑問を抱かざるを得ないこと、そして、大企業と中小企業で施行時期をずらす理由も不合理で、小規模な職場ほどハラスメントの被害を受けている労働者は心身共に追い込まれる事態に陥るのではないかとの思いから、本改正法の積極的な評価はできず、労働法ネタを取り扱う本組合掲示板ブログでは敢えて取り上げなかった。当該組合員の主張の詳しくは、先の集会報告記事をご覧いただきたい。
さて、ILOのハラスメント禁止条約や改正法に限らず、この職場のハラスメント問題は本組合掲示板ブログでも度々取り上げてきた。
本組合掲示板ブログをフォロー・ご購読されている方には最早説明は不要と思うが、我が組合は、2013年4月1日に日本知的障害者福祉協会事務局で起こった末吉事務局長(当時は事務局次長)の組合員(当時は組合未加入)への暴行・パワーハラスメントの謝罪と反省、その他、数々の労働基準法違反の案件と共に団体交渉の議題として取り上げてきた。これは当該組合員が第2回団体交渉の際、末吉の暴行・パワーハラスメントの記録と協会への防止策の要求として提出した文書だが、事実関係では当事者同士で一致する箇所はあれど、末吉は感情的になっていてよく覚えていないとし、事実関係の精査を第3回団体交渉に積み残し課題となったが、暴行・パワーハラスメントやその他労基法違反の責任追及にビビった末吉は団交から逃亡し、現在に至っている。しかも、協会は、暴行・パワーハラスメントを受けたと言いながら当該組合員は「病院」や「警察」に行かなかったから、暴行・パワーハラスメントは無かったという珍論奇説を開陳し、責任者隠しと責任逃れに汲々とし、「権利擁護」だ、「ソーシャルワーク」がなんとか、と綺麗事を言う団体とは思えない醜態を晒しているのである。
協会も『さぽーと』2020年9月号の手嶋先生のコラムを読んで、少しは反省し、襟を正してくれればいいのだが….いや、無理か…。

『さぽーと』2014年3月号
…と、こう思うのにも理由があり、この様な“ブーメラン”記事の掲載は実は過去にもあった。『さぽーと』2014年3月号(特集「職員の労働環境について考える──選ばれる職場であるために──」)の「用語解説」で取り上げた「36協定」である。
これについても、本組合掲示板ブログをフォロー・ご購読されている方には最早説明は不要と思うが、協会は長らく三六協定未締結のまま職員に時間外労働や休日労働をさせていた。当然のことながら完全な労基法違反である。我が組合が団交で議題に挙げ、これについても末吉は説明責任を放棄し団交から逃亡、三六協定がやっと締結されるようになったのは2016年12月だ。
この用語解説「36協定」には執筆者である重村憲司氏(特定社会保険労務士)が労働基準監督署による臨検についても詳しく執筆されていて、編集者である当該は原稿整理しながら苦笑するしかなかったが(まだ組合結成前)、発行後、これを読んだ当時事業課係長のY氏(後に協会から滅茶苦茶な理由で退職勧奨を受けて退職を余儀なくされている)と、
「xxさん(当該組合員のこと)、うち(協会)って三六協定締結してないですよね?」
「自分は知らないけど、やってないんじゃない? もしかしたら、就業規則の変更(2013年のこれまた労基法違反の就業規則変更のこと)もテキトーにやってたくらいだから、コソコソと勝手に労基署に届けてるかもね〜」
という会話をしたことを覚えている。
それにしても、なんでこんな“ブーメラン”記事が載って、末吉はじめ協会幹部・管理職がのうのうとしていられるのかというと、要は自団体が発行している機関誌もまともに読んで無いからだろう。
官僚主義や恥知らずの所業は、遠からず組織や社会を破滅へと導くのである。■
† 尚、協会会員施設の東京都の日の出福祉園(社会福祉法人同愛会東京事業本部)の職員労働組合「ゆにおん同愛会」の「なんくるブログ」にも協会の姿勢が批判的に紹介されています。
「機関誌と協会の姿勢の乖離について さぽーと 2020.9月号 日本知的障害者福祉協会」†
…The end