[職場闘争]第10回団交報告 epilogue 〜「選挙」ってなんだ〜

第10回団体交渉では、末吉の団交逃亡に以外に多くの時間を割いた協議事項がある。それはpart 3でも少し触れた労働者代表選出についてである。

先ず確認しておきたい、協会事務局職員に知っておいて欲しい(いい大人にこういうことを言うのは失礼なのは承知だが、解っていなさそうなので仕方がない)のは、普通・平等・直接・自由・秘密の選挙の基本原則だ。

「普通選挙」とは、性別や人種、信条、社会的身分・財力、門地、教育等による差別を許さず、選挙権が等しく有権者に与えられることである。
「平等選挙」とは、一人一票で、その一票が誰でも皆同じ価値を持つことである。
「直接選挙」とは、選挙権を持つ者が、代表者を直接選ぶ方式である。
「自由選挙」とは、選挙権・被選挙権を持つ者の自由な意志による投票や結社、選挙運動のことである。
「秘密選挙」とは、選挙権を持つ者の自由な意志による投票を保障するための制度である。

これについては本記事後段でもう一度触れる。

この多年に亘り人民が勝ち取って来た選挙の民主制を前提としつつも、労使協定における労働者代表選出についての条文を鑑みれば、労働者代表選出の方法の例示はあるものの、特に具体的で厳密な方法についての定めはない。

これまで三六協定も労使で締結せず、労働基準法違反状態だった日本知的障害者福祉協会事務局が、我が組合から指摘されて*初めて労使協定を締結した最初の労働者代表選出をする際に、“たまたま”挙手でやったという事実はあるが、これについては当初から、挙手では投票の秘密が守られないので、公平かつ公正で民主的な選挙の原則に基づいて行う様に、当該組合員と我が組合は協会に何度も申し入れて来た。

* 事務局長の末吉はその事実を隠蔽したが、これは強調しておきたい。

我が組合は第9回団交ではこれを団交議題として取り上げ、それに対して協会は選出方法について職員に「アンケート」を行うという提案をしたが、その目的・意図が公平・公正な在り方を目指していないことから到底受け入れられないことを指摘し、組合からも別途提案するので、継続協議とすることとなった。
しかし、協会は第9回団交での合意を無視して(これについては本団交で素直に非を認めていたが)、派遣労働者の受け入れ延長に係る労働者の意見聴取の労働者代表選出の為に急遽集められた職員に「アンケート」を行い、しかもそのアンケートは、従来の「A. 挙手」と「B. その他」という2つの選択肢から選べという、選択肢にすらならないもので(「B. その他」って何だよ…)、しかも、それに長年協会の実態調査(各施設・事業所への質問紙調査)に携わっている三浦政策企画課長が、この如何しようも無いアンケートに関わっているのだから開いた口が塞がらない。要は「挙手」に誘導したいとしか思えない様な悪質なものだった。
結果として「A. 挙手」が多数となり、挙手で行われた。…そりゃそうでしょうよ。こんな無意味な選択肢の中から選ばざるを得ず、各職員各自の業務で忙しい中に集められたら、面倒だからこの場で済ませたいと思う心理が働くのは当然だ。

本団交では、我が組合は公平かつ公正で民主的な労働者代表選出を行う環境整備は使用者側が行うことであって、労働者に丸投げすることではないと再三言ったのだが、協会はその方法は職員が決めることと言い張り、組合に問い質された古屋総務課長は「挙手は民主的な方法ではないんですか、先生」と協会顧問弁護士に助けを求める始末だった。
協会としても協会顧問弁護士に顧問料を支払っているし、団交出席には別料金を支払っているので、それなりに働いてもらわなくては困るだろうが、若い協会顧問弁護士さんもレヴェルの低い受け応えをしなければならず、やれやれ…と思ったことであろう。民主的な選挙について有権者・社会人としての知識があれば、弁護士に助け舟を出してもらわなくても、自分の頭で考えて答えられるだろう。少なくとも人権感覚に鋭敏でならなければならない、日本知的障害者福祉協会の事務局員、しかも管理職なら尚更だ。情けない。

尚、労働法令に無知な人事・労務管理責任者の事務局長の末吉は固より、協会管理職連中は知らないだろうから教えてあげるが、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備等に関する省令(平成30年厚生労働省令第112号)による改正後の労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)」によって、労働基準法施行規則労働者代表に係る規定(労基法規則6条の2)が改正されている(2019年4月1日施行)ので、該当箇所を以下に記す。

第6条の2 法第18条第2項、法第24条第1項ただし書、法第32条の2第1項、法第32条の3第1項、法第32条の4第1項及び第2項、法第32条の5第1項、法第34条第2項ただし書、法第36条第1項、第8項及び第9項、法第37条第3項、法第38条の2第2項、法第38条の3第1項、法第38条の4第2項第二号(法第41条の2第3項において準用する場合を含む。)、法第39条第4項、第6項及び第9項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者(以下この条において「過半数代表者」という。)は、次の各号のいずれにも該当する者とする。
一 法第41条第二号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
二 法に規定する協定等をする者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であつて、使用者の意向に基づき選出されたものでないこと**
2 前項第一号に該当する者がいない事業場にあつては、法第18条第2項、法第24条第1項ただし書、法第39条第4項、第6項及び第9項ただし書並びに法第90条第1項に規定する労働者の過半数を代表する者は、前項第二号に該当する者とする。
3 使用者は、労働者が過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
4 使用者は、過半数代表者が法に規定する協定等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない**

** 太字箇所が追加された条文。

この度の改正労基法施行規則にもある様に、過半数労働組合でもあれば話は別だが、労働者任せにせず、使用者側が労働者代表選出の整備を行わなければならないのである。

兎も角、管理職がいる中で、しかも、組合員の行動・言動を逐一監視している組合敵視著しい職場環境において、どうして自由な意志に基づく選挙権行使ができるのだろうか? 挙手よりは有権者の投票の自由意志が保障される秘密選挙が望ましいことは言う迄も無い。

因みに、日本で秘密選挙に選挙法が改正されたのは1900年である。美濃部達吉(法学者・政治家 1873-1948)は著書『選挙法詳説』で「投票の秘密主義」についてこの様に述べている(当該註:旧字旧仮名は新字現代仮名遣いに変更)。

「投票の公開主義にも勿論相当の理由は有るのであるが、総て人事に関する投票には動もすれば個人的な感情が混入し易く、投票の秘密が保たれなければそれが私交の上に影響し、選挙人が自由意思に依って投票することが不可能となる虞が有ると共に、公開主義は又投票の買収其の他の不正行為に因り投票の約束の果たして守られたや否やを証拠立てる手段ともなり、不正行為を保護する嫌が有り、此等の理由に因り、選挙法は明治33年の改正以来は常に投票の秘密主義を取り今日まで固く其の主義を厳守して居る」──美濃部達吉(著)『選挙法詳説』pp.100-101 有斐閣 1948年

各選挙の民主的な基本原則の内、秘密選挙がいち早く、今から120年前の1900年に取り入れられているのに協会が公開選挙である挙手にしている理由は何か? 本団交での議論から、協会はより良い健全な職場環境を作ろうという気はさらさらなく、使用者側の思い通りに事を運びたいという陰険な思惑しか感じられなかった。
この様な態度や姿勢の協会に、これから提案しようと思っている組合からの「公平かつ公正な民主的な労働者代表選出の提案書」(手続き・方法)が幾許かの効果があればいいのだが、協会職員・管理職らの意識改革が行われない限り、ほとんど期待はできんなぁ…と言うのが正直な思いだ。

本団交報告のprologueで紹介した様に、書記として参加頂いた「ゆにおん同愛会」H執行委員長も同様の感想を抱いた様で、本団交の最後に、本記事の冒頭でも触れた民主的選挙の基本原則を、秘密・公開・平等・普通・自由・直接の頭文字を取った「ひ・こ・べい・ふ・じ・ちょく」という語呂合わせを例に挙げて、本団交での噛み合わない議論について、労使で前提となる選挙の原則を共有することと、ご自身の職場の労働者代表選出規程について説明してくださった。当該組合員はこの様な語呂合わせがあることは知らなかった。

H執行委員長は日本知的障害者福祉協会の会員施設の職員であり、月刊誌『さぽーと──知的障害福祉研究──』の厳しくも善き愛読者でもある。会員施設の職員の方にこの様な協会事務局の実態を慨嘆させるのは協会の恥以外の何物でもないことを、先日7月22日の協会理事会の役員選挙で再選された会長の井上さん、どう思います?

…The end

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