[閑話休題]『さぽーと』2017年11月号 今月の切り抜き「労働契約を結ぶということ」

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『さぽーと』2017年11月号

『さぽーと』2017年11月号の特集は「働き続けるために必要な制度と支援―就労定着支援のあるべき姿とは―」2018年施行の就労定着支援について。就労定着支援の事業の実際は未だ不明な部分がある中で、現状の就労支援事業所や就業・生活支援センターで障害者の就労支援、職場定着に取り組んでいる現場からの報告が中心であったが、一般企業での職場定着や就労生活における支援はさておき、いざ福祉的就労に目を向けてみると暗澹たる気持ちにさせられる事件が起こっている。
昨今の就労継続支援A型事業所で経営難から利用する問題障害者の大量解雇問題である。2017年に入って岡山で224人、香川県で59人、愛知県で69人、埼玉県で53人、そして、最近では広島県で112人の大量解雇だ。

元々障害者の解雇問題は今般の就労継続A型事業所以前にもあり、例えば、京都府のキャラクターグッズショップで賃金未払いの上、42人の障害者を含む80人の全従業員が倒産前日に解雇されるという事件もあった。もちろん、解雇の場合は少なくとも30日前に解雇予告をしなければならず、それをしない場合には30日分以上の平均賃金に当たる予告手当を支払わなくてはならない(労基法20条)が、それもなされていない酷いものであった。*

* この事件については、深澤詩子弁護士による『さぽーと』2011年2月号 ドキュメント「障害者42 人困惑 京都市・南区のグッズ店閉店 給料日前日全従業員を解雇」pp.50-51 に詳しい。

しかし、今回は障害者総合支援法に基づく就労継続支援A型障害者総合支援法施行規則6条10-1)の事業所であり、一般企業での就労が困難な障害者が事業所と雇用契約を結び、最低賃金が適用され、就労と技能訓練の機会を得ることを目的とした障害福祉サービスである。もちろん、身体・知的障害者福祉工場の流れを汲み、高工賃での障害者の就労支援に長年取り組んできた法人・事業者も多いが、かねてより就労継続A型事業所は給付金を目当てにした悪質な事業者が参入し、その杜撰な事業運営が問題視されていたところである。
この度の就労継続A型事業所の利用者の大量解雇・事業所閉鎖による失職の背景には、利用者への賃金及び工賃を訓練等給付費から支払うことは原則禁止とされ、事業収益から支出するように、2017年4月1日施行の省令改正により事業運営が厳格化されたこともあるが、いわゆる「グランドデザイン案」から障害者自立支援法成立過程において強化された就労支援施策の制度設計自体に問題がなかったか、一体誰のための“持続的な”制度設計なのか、また、働く障害者(障害のある労働者)の権利保障、福祉的就労の労働者性について議論が尽くされたのか、という思いが過る。
労働部局の障害者雇用の施策である特例子会社障害者雇用促進法44条)は実際のところ赤字経営がほとんどのようだが、それでも企業のCSRとして障害者雇用は守られており、経営が行き詰まった結果、事業所閉鎖で利用者が一度に解雇され、障害福祉サービスを受けられなくなるよりも余程“福祉”的である。

『さぽーと』2017年11月号では編集委員の三瀬修一弁護士(延命法律事務所)が、今月の切り抜き「労働契約を結ぶということ」として雇用の基本的なルールを解説しながら、労働法令に絡めて今般の就労継続支援A型事業所の解雇問題を取り上げ、使用者責任と労働者保護、福祉的観点から障害者の働き甲斐・生き甲斐を奪った事態を強く非難している。1ページもののコーナーではあるが、多くの読者にぜひ読んでいただきたい記事である。
障害の有無にかかわらず、Decent Workの理念に基づいた賃金保障、生活保障と働き甲斐がすべての労働者にもたらされなければ、弱い立場にある労働者、さらに生きづらさを抱えた人々の権利は守られない。労働も福祉も私たちの生きる権利の根は繋がっているのである。

はて、足元の公益財団法人日本知的障害者福祉協会事務局はどうだろう? 事務局職員の雇用において、公益法人としての倫理や基本的なコンプライアンスは守られているのだろうか?

就労継続Aの障害者の解雇問題について、問題の事業所は「私たちの仲間(会員)じゃないから」などと他人事のように言ってみたり会員からクレームが来たという真偽の怪しい話(6,000の会員の中の何ヶ所からかも不明、しかもクレームつけたとされる地区の他の役員に聞いたらそんな話聞いたことがないという始末)で短期間で退職に追い込まれたり管理職の責任を棚上げして排除したい職員にすべての責任を押し付け、また、一度注意を受けて改めたのに、それを再び持ち出し非違行為だと言ったり、突然、役員室に呼び出されて刑事告訴・懲戒免職されたくなければ退職しろと退職勧奨で、自主退職に追い込むという手口を使わなかったか? また、組合加入・組合活動を始めた職員を「ありとあらゆる手段で追い出してやる!」と(準)管理職が息巻いたりしていないか?
三瀬弁護士が指摘しているように使用者側には解雇権濫用法理(労契法16条)が厳格に適用されてきた。そう簡単には労働者を解雇できないのである。退職勧奨自体は必ずしも違法とは言えないが、その態様如何だ。些末なことで、due process を経ずに自主退職に追い込むなど社会通念上許されない。ましてや、労働組合に加入しているという理由で職場を追い出すなど言語道断(労組法7条1)である。

『さぽーと』発行元がこんな有様ならば、読者である良質な事業者、福祉労働者、障害当事者はこれからの障害福祉の未来に希望が持てないだろう。組合敵視する前に、せめて自分たちが発行している機関誌くらい読んで、人権と労働法の基礎知識くらい身に付けたらどうかな。

…The end

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