バイデン米大統領による「障害のある人の完全参加と平等のための計画」

2020年米大統領選挙の結果がグダグダになり、2021年1月6日に敗北を認めないドナルド・トランプ支持者が連邦議会を襲撃する前代未聞の事件も起こりましたが、1月20日、ジョー・バイデン(Joseph Robinette Biden Jr.)氏がアメリカ合衆国大統領に就任しました。

以前の本組合掲示板ブログ記事で、月刊誌『さぽーと』2020年11月号の記事に併せて、トランプ前大統領の障害(者)観を批判的に見て来ましたが、では、対立候補(であった)バイデン氏の障害(者)観や政策はどの様なものかを見てみたいと思います。
これは大統領選挙期間中の彼のweb siteにあった“THE BIDEN PLAN FOR FULL PARTICIPATION AND EQUALITY FOR PEOPLE WITH DISABILITIES”を翻訳したものです。
私の語学力不足から、全てを翻訳・転載するのは時間・労力共に困難なので、要点をピックアップして紹介したいと思います。また、何か間違いがあったらご指摘くださいませ。m(_ _)m


障害のある人の完全参加と平等のための計画

全ての人が尊厳を持って扱われるべきであり、そのための成果に焦点化されるべきです。(2020年)7月26日、「障害を持つアメリカ人法(ADA)」制定30周年を迎えます。障害者とその支援者、関係者の先進的な取り組みに感謝すると共に、障害のある人への「機会の平等と完全参加、自立生活と経済的自立」である法の目的に沿って、私達は取り組んでいるところです。しかし、全ての障害のある人が私達の社会の中で完全に参加でき、同じ様に選択の機会を享受し、多くのアメリカ人にとって当たり前の機会を獲得する為に為さなければならないことはたくさんあります。

オバマ政権の当初、私達の国は重大な景気後退に直面しました。オバマ大統領は多くのアメリカ人の為の経済と金融の健全化を目指した刺激的な政策パッケージを実施するために、副大統領に私(バイデン)を指名しました。今日、私達の国は、地球規模のパンデミックと、グローバリズムと労働問題のインパクトにより引き起こされた大きな経済的課題に直面しています。私は大統領として、経済再建の為に努力をし、さらに、数百万人のアメリカの障害者及びその家族のためによりインクルーシブでアクセシブルな経済発展を目指します。

全ての人種や性差、宗教、性的指向、障害に関わりなく、その居場所を見つけることができる様に、より強く、より広がりのある中間層を作り上げるための障害者のコミュニティに働きかけます。それは、私達の社会のあらゆる場所に存在する6千1百万人の障害のあるアメリカ人全てにとって、インクルーシブな社会を確実なものとする為、法律や政策、文化を見直すことを意味します。私は障害のある人の利用を妨げる障壁を撤廃する政策を実行することを優先します。それは、障害者ばかりという就労環境でなく、非障害者と遜色ない雇用条件の下での仕事、購入可能でアクセシブルかつ障害者ばかりが住むのではない住居、利用可能で適正価格な移動、障害者の投票を可能とする手続きの長期的視点によるサービスと支援です。

トランプ大統領と共和党は、障害のある人を含む、基礎疾患のある1億のアメリカ人に適用される健康保険であった画期的な“オバマ・ケア”を廃止しようと企てました。また、苦情申立を困難にすることでADAを弱体化しようとしました。さらに、障害のある人が直接的に恩恵を受けていたメディケイドと補足的保障給付(SSI)*を根本的に改悪しようとしました。私は大統領として、トランプ政権によって破壊されたこれらの政策を元に戻し、全てのアメリカ人の市民的権利を弱体化させた政策的影響に対して闘い、誠心誠意、必要とされるサービスを拡張するために障害のある人のコミュニティと議会に働きかけます。

* 当該註:Supplemental Security Income 稼得能力の無い高齢者・障害者に対しての所得保障制度。

私は、インクルーシブというレンズを通して、すなわち、気候変動と教育・居住の経済政策の視点から、全ての政策を見通す必要があると認識しています。障害のある人の政府への要求と発展、実現を含め、その獲得を目指します。
達成すべき目標として、私は次のことを実現します。

・政策の策定において障害のある人の完全なインクルージョンを確実なものとし、障害のある人の市民権を積極的に保障する。
・メンタルヘルスを含む、質が高く、可能な限りのヘルスケアへの利用を保障し、自己決定に基づく各自のニーズに最適化された、家庭と地域を基盤とした、長期的なサービスと支援を拡大する。
・障害のある人への格差のない、平等な雇用機会を創出する。
・障害のある人の経済の安定を守り、強化する。
・就学前教育から中等後教育まで、障害のある生徒が教育課程と必要とする支援を受ける権利を保障する。
・利用可能で平等、適切な住居や移動を支援技術を享受する権利を拡大し、緊急事態において障害のある人を保護する。
・地球規模での障害者の権利を推進する。

バイデン氏は主としてこの様な公約を掲げており、障害のある人への権利保障や経済政策・社会政策、雇用、教育、生活面での支援策への数値目標、トランプ政権下で後退した政策の転換について、日本の「障害福祉計画」並に具体的な政策を発表していますが、私(当該組合員)は、Americans with Disabilities Act(ADA)The Rehabilitation Act of 1973, Individuals with Disabilities Education Act in 1975の有名どころの米国法しか知らず、その他の法律や施策、予算措置については詳しくなく、私の理解を超えるところもある為、申し訳ありませんが、細かな施策・方針についての訳出は割愛させていただきます。

最後に障害者権利保障へのアメリカの取り組みについて、次の様に述べています。


先進的な地球規模での障害者の権利

オバマ-バイデン政権では、世界中の国々において、障害のある人の為の機会の拡大と基本的人権としての障害者の権利の理解し、強いリーダーシップを発揮しました。アメリカ合衆国国際開発庁(USAID)に障害者と包摂的開発の最初のコーディネーターを任命したのと同様、国務省に国際障害者権利特別アドバイザー(SADR) を任命したことです。そして、次の様な政策を実行します。

外交と開発を通して障害のある人のインクルージョンと人権を促進
国際障害者権利特命公使を任命します。対外援助プログラムは障害のある人のコミュニテイ・ケアとインクルージョンを推進するために、特命公使は州・連邦制を超えて働くでしょう。しばしば、社会の生産性の為に疎外されがちな障害のある人が収容・保護の対象とならない為に、地域での教育や生活、雇用機会の提供を含め、インクルージョンを最大限に促進させるでしょう。また、谷間の障害を含め、障害のある人のニーズに手を差し伸べる保護政策もこれに含まれます。そして、国務省と国際開発庁(USAID)が、人道危機や紛争状態、地球規模での新型コロナウイルスのパンデミックによる障害者への影響に対して取り組むように働きかけます。

国連障害者権利条約の批准へ
2009年、アメリカ合衆国は、「障害を持つアメリカ人法」“Americans with Disabilities Act(ADA)” を反映させた国連障害者権利条約に署名しました。我が国は障害者の権利を推進するリーダーとして国際的立ち位置に立ち返って、議会(上院)に批准するように働きかけます**

** 当該註:2009年にオバマ民主党政権は国連障害者権利条約に署名し、アメリカ国内の障害者団体や関係者、超党派の議員により批准を目指していたが、一部の共和党議員の反対に遭い、批准に必要な2/3の賛成が得られずに米上院で否決された。

国連国際障害者デーを祝う
毎年12月3日は、我が国でも世界でも、障害のある人の課題と達成を考える日です。障害者運動のスローガン「私達抜きに、私達の事を決めないで」 “Nothing About Us, Without Us”の声を拡げて行きましょう。


因みに、バイデン大統領は吃音(発話障害)のある初めてのアメリカの大統領です。

“Biden shares vulnerable story on how he overcame stuttering” CNN 2020.2.6

今ではバイデン大統領の演説を聞いていてもほとんどわかりませんが、若い頃の彼はとても悩み・苦しんでいたとのことです。そして、吃音によって人の心の痛みと、人は何かしらの苦悩を抱えて生きていることを学んだと語っています。

世界的に吃音症の有症率は1%と推計されています***
バイデン大統領が吃音と向き合い、それを隠さずに公にしたことは、世界中の吃音という発話障害を持った人達に励ましと勇気をもたらしたのではないでしょうか。

***  Yairi, E., & Ambrose, N.,: Epidemiology of stuttering: 21st century advances. Journal of fluency disorders, 38(2), 66-87. 2013

何はともあれ、トランプ政権よって後退したアメリカの障害者政策が、公約に従い、バイデン政権によって前進することを願って止みません。

(2021.5.6追記)アメリカの障害者施策・障害者雇用に精通している方から、拙訳についてご指摘を頂戴しましたので、該当箇所を一部修正しました。
また、バイデン氏の計画前文にある“competitive and integrated employment”について、「これはアメリカの障害者シーンというか職リハシーンでは定型的な表現で、日本の職リハ関係者でも競争的かつ統合的雇用などと直訳する人も多くいます。 competitive employmentは、一般雇用と訳されることもありますが、要は、通常の企業雇用が想定されていて、最低賃金以上で日本的にいえば労働三法適用の雇用という意味です。 integratedは統合的という意味ですが、要は、日本の授産施設にあたるシェルタードワークショッブや企業の中でも障害者ばかり集めたセクションではないという意味です。 両方あわせて Decent work というところでしょうか」との補足説明を頂きました。ありがとうございました。

…The end

バイデン米大統領による「障害のある人の完全参加と平等のための計画」」への2件のフィードバック

  1. 世界中で人民を殺してきた米国。今も占領意識丸出しでわが町の上空で爆音を撒き散らしています。米本国でできない低空飛行訓練を平気で行うのは、戦勝国意識だけではなく根底にアジア人蔑視があると思います。根底にヘイト感情、日米安保による米軍の特権的地位がさらにヘイト感情を拡大再生産。そんな米国でも障害者問題に対して国のトップが計画を示しているのは、あの津久井やまゆり園事件でも総理大臣が声明一つ発表しなかった日本国とは雲泥の差ですね。

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    1. jaidunion
      jaidunion

      アメリカでも過去の植民地支配や覇権主義、人種差別への懐疑が醸成され、BLM運動や差別と侵略を行った指導者の銅像を市民運動家が実力で撤去しているとの報道もあります。過去の過ちについて市民の意識が高まっていることは歓迎すべきことです。
      私はバイデン大統領を支持するものではありませんが、トランプ政権のアメリカ・ファースト、自国優先保護政策が転換されることは、まだマシな次善の策として評価したいところです。

      日本が過去の侵略戦争でアジア各国に大きな惨禍をもたらしたことに、一部政治家が反省のかけらもなく、また、おっしゃる通り、政治家が障害者政策をはじめ、何も具体的なビジョンを示していないことに、比べて、他の者との平等を基礎とした「障害者権利条約」の批准を目指すとしたことは、アメリカが世界の超大国であることは否定できない事実ですので、今後しっかりとした役割を果たしてほしいと思っています。

      それにしても、この公約を全文翻訳して紹介したいところですが、オバマ政権で副大統領を勤めたこともあってか、かなり具体的な政策を打ち出しています。政策実現に向けて頑張ってほしいですね。

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